ジェイド・ワイリックは、遺伝子操作によって優秀な頭脳と高い身体能力とを得たスーパーウーマン。
5歳の時から謎の組織の一員として生きてきたが、乳癌を患い余命宣告を受けたことから、組織を追放される。
路頭に迷うワイリックを拾ったのは、元陸軍で凄腕の私立探偵チャーリー。
有能なワイリックは、チャーリーの良きアシスタントとなり、二人は難解な事件を次々に解決させていく。
活躍するたびに近づいていく二人の距離。
やがてワイリックの心には、今まで知らなかったほのかな感情が芽生えてきた。
しかしチャーリーには若年性アルツハイマーで施設に入っている愛妻がいるため、この想いを押し通すわけにはいかない。
さらにワイリックがかつていた組織が、彼女を取り戻すために近付いてきて――。
癌サバイバーのヒロインと病気の愛妻を支える私立探偵という、異色のコンビによるロマンティック・サスペンス第一弾!
設定も見た目もインパクト抜群のヒロイン
『明けない夜を逃れて』は、ハーレクイン小説で知られるアメリカの作家シャロン・サラさんの作品です。
今作もロマンスかなと思いきや、実はコテコテの探偵モノ。
しかも遺伝子操作で生まれた超人類が主人公という特殊設定ミステリーであり、「あのシャロン・サラさんがこれを?」とファンなら驚くようなジャンルの物語です。
でも畳みかけるようなスリルと悲劇の中に哀愁や秘める思いが漂っており、随所で心が締めつけられること必至!
シャロン・サラさんならではの胸を揺さぶる熱い展開を、緊迫感溢れるサスペンスの中で楽しむことができます。
さて『明けない夜を逃れて』の見どころは、まずは何といっても主人公ワイリックの魅力。
遺伝子操作されただけあって、頭の回転がすこぶる速く、身のこなしはスマートだし、腕っぷしも強くて、とにかくカッコいい!
癌の余命宣告から奇跡の復活を遂げたという過去も劇的ですし、さらに癌治療により両乳房は切除、髪の毛はもちろんまつ毛までないという見た目も衝撃的。
それでいてスタイル抜群の美女だというのですから、主人公としてのインパクトは相当なものです。
幼少時から長く組織の一員をやっていただけあって、情緒面では不器用なところがあり、そこもまた魅力です。
そんなワイリックが、どことなく陰のある私立探偵チャーリーに拾われて、ズバ抜けた能力を生かし、アシスタントとして活躍します。
大富豪の失踪事件など数々の問題をパワフルに解決していく様子は爽快で、テンポの良さからグイグイと読ませてくれるんです。
その過程でワイリックの中に新たな感情が芽生え、ちょっとドギマギしてくるのですが、ここから物語はさらに面白くなっていきます。
想いを秘めて戦う異能の美女
私立探偵チャーリーも、実にいい味を出しているキャラクターです。
若年性アルツハイマーの妻を心から愛していて、献身的に介護をしながら、探偵として世の中の悪と孤独に戦ってきました。
ワイリックを拾ったことからもわかるように、とにかく熱く誠実で、ハードボイルドな人です。
このチャーリーに、人並の愛情を受けずに育ったワイリックが特別な想いを抱くのは当然と言えば当然で、彼女は自分の中の初めての感情に困惑します。
でもチャーリーには愛する妻がいて、ひたむきな愛情で介護を続けていて、ワイリックが入る隙間はとてもなさそうです。
相手を想うからこそ踏み込むことができない、この切なさともどかしさ。
しかもワイリックは乳癌の治療で両乳房を失っているので、余計に恋に憶病になってしまうのですよ。
目立ったラブシーンはないのに、もう随所から愛しさや悲しさが漂ってきて、読みながらキュンキュンが止まらなくなります。
このあたり、さすがシャロン・サラさんの作品だと唸らされます。
そこに加えて、ワイリックがかつていた組織が、彼女を再び取り込もうと迫ってきます。
これがまた狡猾で巧妙でスリリングで、それと戦うワイリックが凛としていてカッコ良くて、もうハラハラドキドキの連続!
ワイリックは無事に組織から逃げきることができるのか、チャーリーへの密かな想いをどうするのか。
ロマンス的な面白さもサスペンス的な面白さもずっと続くので、最後の最後までテンション爆上げで読むことができます。
ロマンスも秀逸なミステリー
『明けない夜を逃れて』は、海外ロマンスでおなじみのmirabooksの文庫です。
一見ミステリーには見えにくく、書店でもハーレクインコーナーに置かれているかもしれませんが、個人的にはミステリー好きにぜひ読んでいただきたいと思える一冊です。
ワイリックとチャーリーのバディがかなり斬新で魅力的ですし、事件の裏に恐ろしい陰謀が潜んでいたり、組織とのスリリングな戦いが始まったりと、読み始めたら時間を忘れて没頭してしまうレベルなのです。
特にワイリックの過去絡みのパートはかなりの衝撃展開で読み応え抜群。
もちろんシャロン・サラさんの作品ですから、ロマンス部分も秀逸で、二人の交わりそうで交わらない想いがなんとももどかしく、それがまたページをめくる手を加速させます。
障害のある禁断の恋って、もうそれだけでご飯三杯は行ける面白さですよね笑。
そして『明けない夜を逃れて』は、シリーズ一作目です。
この先物語が一層深く激しく熱くなっていくことは間違いなく、今作を読んだ方なら二作目も読みたくなってウズウズする可能性大!
そのくらい展開もキャラクターも魅力的なので、ドラマチックなミステリーが好きな方や、ハマれるシリーズをお探しの方は、ぜひ!
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