物語は、パリに住むバツイチの書店主であるローレンが、行きつけのカフェに行く途中の道端で女物のバッグを拾うところから始まります。
バッグの中には香水瓶とクリーニング屋の伝票、パトリック・モディアノのサイン本、そして文章が綴られた赤い手帳が入っていました。
ローレンはバッグに入っていた手帳を中を見ます。
そこには持ち主の女性が綴ったと思われる文章が書かれており、読み進めていくうちにローレンはその魅惑的な世界に魅せられてしまいます。
そして、本来警察に届けるべきところですが、ローレンはバッグに残った僅かな手がかりを元に持ち主を探し、直接バッグを渡そうと考えるのでした。
少しずつ物理的に近づいていく2人の距離
『赤いモレスキンの女』の見どころは、何と言っても徐々にローレンとバッグの持ち主である女性の距離が物理的に近づいていくという点です。
例えば私達が落とし物を見つけたら、すぐに交番などに届けると思います。
しかし、この物語はそうした落とし物の内容から持ち主に興味を持った男ローレンが、僅かな手がかりを持ち主を探すというもの。
落とし物の中身を見てどんな人なのかを空想するというのは、何となく分かる気がするという方も多いと思います。
しかし、そこから「自分で持ち主を探す」という発想に至る方は中々いないでしょう。
バッグの中に入っている物から得られる情報というのは断片的なものばかりで、当然ローレンの持ち主探しは難航します。そのため、読み始めのうちは
「本当に持ち主を見つけられるのだろうか?」
「一体どうやって持ち主を見つけるのか?」
と心配になってきます。
しかし、ローレンはそうした僅かな手がかりから発想を広げていき、少しずつ持ち主を特定し始めます。
このローレンと持ち主2人の距離が少しずつ物理的に近づいていく描写が見ていて非常に興奮を覚えるところです。
また「落とし物から持ち主を特定し、直接返す」という難しいシチュエーションに取り組むローレンの並々ならぬ情熱も本作の見どころと言えるでしょう。
主人公のローレンに共感して、読み手である私達自身もどんどん持ち主探しに夢中になってしまうような感覚になるのが本作の魅力ですね。
実在の作家が物語のキーを握る
本作のもう1つの見どころが、実在の作家であるパトリック・モディアノが登場するというもの。
それも名前だけの登場というわけではなく、物語において重要な部分に関わります。
実は本作の著者であるアントワーヌ・ローランはパトリック・モディアノの大ファンで、本作のストーリーもパトリック・モディアノの作品を下地にしています。
こうした著者同士の繋がりというのも本作には含まれているので、コアな小説ファンの方にとっては読んでいて思わずニヤリとしてしまう展開もあるでしょう。
ロマンティックな大人の恋愛小説
『赤いモレスキンの女』はロマンティックな大人の恋愛小説として読むことが出来るのも魅力の1つです。
ローレンは40代半ばで、15歳になる娘もいる。元々は会社勤めをしていてそれなりの地位にいたが、自分の人生に疑問を持ったことから書店を開いた。
そんないい大人が落とし物の中にあった手帳の内容から持ち主に対し様々な思いを馳せ、わざわざ自分の手でバッグを返すために奔走するというのは非現実的で、けれどロマンティックで応援したくなるテーマと言えるでしょう。
また、後半になると今度はバッグの持ち主である女性のロールがローレンを探し始めるという逆転の展開も非常に魅力的なので、恋愛小説が好きな方にもオススメです。
探偵小説風味の素敵なラブストーリー!
『赤いモレスキンの女』は主人公であるローレンが女物のバッグを拾い、その中身から持ち主に強く惹かれ、自ら探し始めるという作品。
徐々に持ち主であるロールとの距離が物理的に近づいていく様子は読んでいて思わず夢中になってしまうので、時が経つのを忘れて読み進めてしまう方も多いと思います。
僅かな手がかりを頼りに発想を膨らませ、持ち主を探すローレンの情熱の強さも見どころですね。
また、実在の作家であるパトリック・モディアノの作品の影響を受けているだけではなく、パトリック・モディアノ本人が作中に重要な役割として現れるというのも大きな特徴です。
これまでに多くの小説を読んできたという小説ファンの方の中には、こうしたクロスオーバーに思わずニヤリとしてしまう方もいると思います。
加えて、僅かな手がかりを元に持ち主に迫っていくハラハラとした感覚だけではなく、持ち物や手帳の内容から持ち主に思いを馳せるというロマンティックな大人の恋愛に酔いしれることが出来るというのも本作の魅力だと思います。
本作は多くの方にオススメ出来る良作の1つですので、是非一度手に取ってみてください!
コメント