まさにタイトル通りの「奇妙な物語」が10編収められている作品集です。
ええ、大好きなんですよ。この雰囲気。なかなかブラックなお話もあって実にツボなわけです。
しかもデイヴィット・ロバーツの挿絵も最高なんです。奇妙さ10倍増しくらいになります。
物語も非常に読みやすくて、なんというか「大人の童話」って感じでスルスル読めます。翻訳物の中でも抜群に読みやすい。
今回はその中から5つのお話を見てみましょう。参考にしていただければ幸いです。
関連記事
➡︎『街角の書店(18の奇妙な物語) 』は「奇妙な味」の入門書に超おすすめです
➡︎シャーリイ・ジャクスンの名作短編集『くじ』を読んで「奇妙な味」を楽しもう
『ピアース姉妹』
人里離れた浜辺の近くにあるボロボロの小屋に、ピアース姉妹が住んでいました。
週のほとんど海に出て魚をとって、食料にしたり燻製にして売ってお金にしたり、と細々と生活しています。
そんなある日、ペアーズ姉妹は荒れている海で溺れている男性を発見。さっそく助けてあげます。
しかし、ペアーズ姉妹はもういい年ですし、辛い人生を歩んできたので肌はガサガサだし髪は伸び放題で服もボロボロ。
目を覚ました男性はそんな二人の姿を目にし、驚き、暴言を吐き、逃げ出してしまいます。
助けてあげたのにまさかの罵倒されてしまったペアーズ姉妹。そんな二人がとった行動とは……。
しょっぱなから好きな物語。ブラックな世界観が絶妙なんですよ。
暴言を吐かれたことで、一線を超えてしまった姉妹。んー奇妙な後味。でもちょっと悲しい気持ちになった。
ちなみに表紙のこの人たちです。
雰囲気最高。
『地下を行く船』
兵士だった時に片足をなくしたモリス氏は、退職後に何をするか悩んでいた。本を書くか、サイクリングをするか、魚釣りをするか。
悩んだ挙句、モリスはボートを自作することに決めた。
毎日コツコツ、綿密に計画し丁寧に作業を続け、やっとの思いで念願のボートを完成させました。
しかし、完成後にモリスは気がつきます。ボートを作っていた地下室のドアが、小さい。ボートよりもドアが小さい。
つまり、地下室からボートを出すことができない。彼は落胆します。ひどく落ち込みます。
しかし、突然の大雨によって川が氾濫。まさかの展開に!
これもかなり好き。ブラックな感じではなく、なぜか心地のよいラスト。ほんと絶妙なんですよ。
『蝶の修理屋』
古物店やオークション会場を回ることが趣味なバクスター君はある日、博物館に飾られている無数の蝶を目にし、魅了されてしまいます。
この美しい蝶たちをどうにかしたい。
そんな思いでいつものように馴染みの古物店に行くと、「蝶の修理屋」という手術道具が売っていました。なんとコレを使えば、死んだ蝶も甦らすことができるのだそう。
これであの博物館の蝶を!
バクスター君は博物館に行き、閉館するのを隠れて待ち、蝶を全て盗み出そうとします。
果たして、蝶を甦らすことはできるのでしょうか。
「蝶の修理屋」というファンタジーな手術道具が実にツボ。古道具屋さんってやっぱり夢があるわあ。
『隠者求む』
裕福に生まれ育ったジャーヴィス夫妻が田舎に大きな屋敷を買った。
ある日、その近くを散歩していたら洞窟を見つけた。
そして「昔の貴族がやっていたように、洞窟に隠者を住ませよう」という話になった。
食事は提供するけど墓場のように静かにしていること、を条件に、広告を見てやってきた男性を洞窟に住ませることになる。
確かに居心地がよいとは言えないが、男性の方も何もせずに食事を提供してくれることがありがたかった。
しかし月日が進むにつれて食事の質が下がっていき、やがて何も届けられなくなった。
ジャーヴィス夫妻は隠者を住ませることに飽きてしまったのだ。
そして隠者は……。
コレもよい。なかなかゾクッとさせてくれる展開。
確かにジャーヴィス夫妻のやったことはヒドいよ。何気ない気持ちで人をもてあそんだのだから。
『宇宙人にさらわれた』
授業中、教室の窓から見えた奇妙な光。
そのことがキカッケとなり、子供達の間では「UFO着陸!」「宇宙人が来た!」との噂が広がります。
しまいには「ボーウェン先生がさらわれた!」と大騒ぎに。
子供達はすっかり噂を信じ切ってしまっており、そんな事実はないと否定しようをしても「何かを隠そうとしている!」と隠蔽を疑われてしまう始末。
そんな騒ぎを抑えるため、先生たちがとった行動とは。
純粋に面白い。ブラックな感じはなく、むしろほっこりするお話です。
このように、作品によって後味が全然違うんですよ。だから「次はどんなお話なのかな?」って楽しみにさせてくれるんです。
一つのお話がかなり短いですから、10作品まとめて一気読みできちゃうんですよー!超贅沢です。
奇妙なお話が好きな方は必見ですよ
かなり厳選された10作品という印象。なんと全て一定以上の面白さを誇るんです。ハズレがない、と言いますか。
他にも、怪しげであったりスッキリするお話だったりユーモアがあったり、奇妙な世界観ながら後味の異なる作品が揃っております。
「奇妙なお話」に興味があるならぜひお手に取ってみてくださいな。
でね、先日ご紹介した『街角の書店 (18の奇妙な物語)』も奇妙な味の物語が詰まっているので非常におすすめなんですけど、『10の奇妙な物語』とは微妙に違う世界観なんですよ。似ているようで、どこか違うんです。
この違いが面白くて。。ぜひ両方読んでみていただきたい……!(* >ω<)
では最後に、『蝶の修理屋』より名言を一つ引用。
蝶の修理道具を手に入れたものの、本当に蝶を蘇らせることができるか不安な少年に、老人が放った一言。
「何ごとも同じだとも。自信というものは、やりながらつけていくもんだ」
P.61より
コメント
コメント一覧 (2件)
「奇妙な味」というとロアルド・ダールとサキくらいしか読んだ事がないのですが、海外では広く書かれているのですね!
日本では阿刀田高さんくらいしか印象にありませんが、他にも沢山書かれているのでしょうか。
ロアルド・ダールとサキも良いですよねえ!ちょうど彼らの作品の記事も書こうとしていたところです。海外作品の奇妙な味が大好きなんですよ。。
そうですねえ。日本で奇妙な味といえば阿刀田高さんがずば抜けて有名ですよね。「奇妙な味」っぽい作品は日本でも多く見られますが、あそこまで確立した作家さんはあまり見ませんね。「奇妙な味」っぽいのであれば、あとは三橋一夫さんの『ふしぎ小説集成』とか好きです。