傑作ホラー短編『よもつひらさか』-今邑彩さんの「最高傑作候補」をご紹介しましょうか

迷った。

かなり迷いました。

今邑彩さんの「最高傑作」はどれかと。別に無理に決める必要はないんですけど。

館ものミステリーの『金雀枝荘の殺人』にしようか、短編ミステリ『時鐘館の殺人』にしようか、「そして誰もいなくなった」を題材にした『そして誰もいなくなる』にしようか。

で、改めていろいろ読み返していった結果、『よもつひらさか』と『時鐘館の殺人』で今も迷っています。

まあ『よもつひらさか』はホラーで『時鐘館の殺人』はミステリなので比べるのもアレなんですけど。

どっちも傑作すぎるんですよねー!!(ノω`*)

 

『よもつひらさか』

 

『よもつひらさか』は12編からなるホラー短編集です。

どれもタイプの異なる怖さがあって、霊的なものから人間の怖さを描いたものまで幅広く取り揃えてあります。

なにより、今邑彩さんならではの「味」というものが全編にバンバン仕込まれているっていうね。

 

見知らぬあなた

近所の公園で男性のバラバラ死体が発見された、というテレビのニュース見た女性は驚く。

死体の特徴が、一年前に別れた夫にとてもよく似ていたのだ。

そこにちょうど、中学生の頃から文通をしていた「彼女」から封書が届く。

 

「彼女」は私に対して異常な執着を持っていた。今回届いた手紙の内容も少しおかしい。

前にも書きましたが、私は、あなたを傷付けたり、苦しめたりする人間は絶対に許せないのです。絶対に、絶対に……

P.16より

もしかしたら「彼女」が元夫を殺したのかもしれない。疑いも持った女性はすぐに返事を書くが……。


これは良い定番ホラー。今となってはよくあるオチかもしれないですが、とにかく話の流れがお上手。

オチがわかっていても、最後の一文はやはりゾクッとします。

 

ささやく鏡

祖母の遺品を整理していて発見した「鏡」。

祖母は生前「あれは恐ろしい鏡だ」「むやみと見るな」と言っていたが、中学三年生の「わたし」は高校のセーラー服を着た自分の姿を見てみたくて、誘惑に勝てずに鏡を覗いてしまう。

すると、そこには顔に大きな傷を負った自分の姿があった。

それから二月ばかりたった頃、「わたし」は事故に合い、鏡で見たときと同じ傷を負ってしまう。

あれは「未来を写す鏡」だったのだ。


というような、話としてはありがちな「未来を写す鏡」を軸にした物語なんですが、今村さんが書くとこんなに怖くなるのですね。

このあと「わたし」に降りかかっていく悲劇は「鏡」のせいだったのか。もし鏡を見ていなかったらどうなっていたのか。

と、いろいろ考えさせられる作品でもあります。

それにしても、ラスト一文のキレの良さよ。

 

時を重ねて

妻が不倫してるかもしれない、という相談を受けて、小泉の妻・美砂子の不倫調査をすることになった主人公。

そんな美砂子が今度一人で旅行するという。

これは不倫に違いない!と、跡をつけてみた主人公は、電車の中で美砂子がとあるカップルにお願いして席を代わってもらっているのを目撃した。

さらにホテルのカフェテリアでも、老カップルに声をかけて席を代わってもらっていた。

なぜ、美砂子はそんなに席を代わってもらうのか。

しかも美紗子の不倫相手らしき人物は一向に現れない。部屋はシングルではなくツインに泊まっているというのに。

 

そして主人公は知ることになる。

この旅行に隠された、まさかの真実を。


これもゾッとするんですけど、実はいい話でもあるっていう絶妙さがあります。寒気がするのに暖かい。どういうことだ。

というか、このような物語を描く今村さんがすごい。

 

ハーフ・アンド・ハーフ

それにしても、真由子は「折半」ということに、病的なまでにこだわる女だった。

P.149より

なんでも半分こにしないと気が済まない妻に別れを切り出した男性の話。

設定だけでもう面白いし、絶対良くない結末になるのはわかりきっている。だからこそ思いっきり楽しめるんです。

こういう話を読むと今村さんの「巧さ」がよくわかります。

ホラー要素にゾッとするというか、今村さんの「巧さ」にゾッとするんですよね。

 

よもつひらさか

結婚し子供が生まれたという娘に会うため、東京から小さな田舎町までやってきた六十過ぎの男性。

娘の家まであと少し、という所で立ちくらみした彼は、そこに偶然通りかかった青年に助けられる。

青年も行く方向が同じということなので、一緒にゆるい坂を登り始める。

すると青年は語り始めた。

この坂は、『よもつひらさか(黄泉比良坂)』という黄泉につながっている坂であると。


まあ名作ですよね。

雰囲気も設定も語り口もストーリー展開も完璧でしょう。

読んでいる途中から「これはまさか?」「あー絶対そのパターンでしょ?」「やっぱりー!!!」って感じでオチの想像ができるんですけど、今村さんの物語はそんなの関係なしに面白い。

終わりに近くに連れてジワジワ忍び寄ってくる気味の悪さがたまりません。

 

 

他にも『茉莉花』『双頭の影』『家に着くまで』『夢の中へ……』『穴二つ』『遠い窓』『生まれ変わり』といった短編があるのですが、いずれも演出がお上手すぎるんです。

先ほども述べたように、話の途中でオチが読めてしまう短編もいくつかあるんですよ。

だけど、「オチが読めたって?それがどうかしたの?」と言わんばかりに面白いんです。これが今村さんのすごさですよ。

話の見せ方が巧い、語り方が絶妙、というんですかね。12編もあれば1個くらいは「微妙だな」と思える話も合っていいじゃないですか。というかそれが普通でしょうよ。

なのにこの短編集は12編全部が極めて面白い。読み応えがあり、しかもホラーでありながらどれも違った味わいがある。

でも夜眠れなくなるほど怖い、というわけではなくて、ビシッとピリッとキレの良い怖さ。気持ちいいくらいに。

これ一冊に今村さんの魅力が全部詰まっていると言ってもいいかもしれません。それほどに優れた短編集です。

もしまだ今村さんの作品を読んだことがなければ、最初に一冊にもおすすめですよ。

これを読めばほぼ間違いなく今村作品にハマっていただけるでしょう。

 

うーん、あとは『時鐘館の殺人』もご紹介したいなあ。。

とりあえずこの二冊を読んでおけば、今村ワールドの虜になるのは決まったようなものです。

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2015.08.16
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8 件のコメント

  • あぁ~、懐かしいです。私、この本で今邑さんにはまりました。読んだのは何年も前なのに、タイトルだけでどんな話か思い出します。特に表題作が凄く好きです。後味悪くて、キレッキレの短編集ですよね。今邑さんの短編は本当にハズレがないので、何度も読み返しています。

    • りかさんこんにちはー!この作品良いですよねー!
      私も最近読み返して、「やっぱり巧いなー」と改めて思わされました。
      そうそう、本当にキレッキレのキレッキレなんですよね笑。この絶妙さはなんなんでしょう。
      ほんとハズレがないからすごいです。もっとたくさんの作品を読みたかったなあ。。

  • 今邑彩さん。なにげに好きで結構もってますが、これ読んでない!!なんてことでしょうか(笑)
    赤いべべ着せよ、、でも怖かったからなぁ、大丈夫かな。
    でも、そして誰もいなくなる、金雀枝荘、をはじめ、名作多いですよね。
    「少女Aの殺人」「ブラディローズ」あたりなんかも好きです。
    でもベタですが、「ルームメイト」がなんだかんだで好きですが(笑)

    • おっ、hitomiさんも今邑さん好きでしたか!良いですよね〜(*´∀`*)
      大丈夫です!そこまで怖いってわけじゃないので(多分)!
      それより「巧い」って思わされてしまうかと。
      あーいいですねえ。というか面白くない作品を探す方が難しいですよね。。

  • こんにちは!暑い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。体調など崩されませんよう、ご自愛下さい^ ^
    『よもつひらさか』・・・
    昔住んでた地域の図書館で借りて読んで、すごく印象に残っていたんですが、2、3年前ふと読み返したくなって、ずっと探してたんです!
    タイトルと作者をうっかり失念してしまっていたんですが、ここに書かれていたあらすじを読んで、
    「これだ!」
    と、思いました^ ^
    特に「ハーフ・アンド・ハーフ」と「見知らぬあなた」が印象的でした。
    これでようやく借りられます!というか、早速借りてきます(笑)
    ありがとうございました(*^^*)

    • キツネ子さんこんばんは!
      本当に最近暑いですね〜。おかげさまで私は元気にしております(*´∀`*)
      おー!お役に立ててよかったです!やっぱりこの短編集は面白いですよね。
      「ハーフ・アンド・ハーフ」と「見知らぬあなた」は私も好きです〜。というか全部好きなんですけどね笑
      キツネ子さんもお元気そうで何よりです!お体にお気をつけて、ぜひぜひ一気読みしちゃってくださいー(* >ω<)

  • これ、ひじょーにいいですね!
    ...って、挨拶を失念しました笑 こんにちは、anpoさん。

    新本格の作品を手当たり次第読んでいたときに、これもそんな感じかなと
    「金雀枝荘の殺人」を読んで以来、今村作品は実は2作品目です。
    避けていたわけでもないんですが、なんとなく縁がない...みたいなことありませんかね?笑

    たしかに途中でオチ自体は想像できるものが多かったのですが、
    ホラーというよりは、あたかも怪談話を聴くようなかんじで楽しませていただきました。

    短編集だといくつか当りがあればいいかなと思っているので、こんなに当りの多い
    (というかほぼ100%!人によって好みはあるでしょうが)短編集は、めったにないでしょ。

    設定自体は結構ありそうだし、「ささやく鏡」とか「時を重ねて」なんかは、もうちょっとSF色を
    濃くすれば誰かが書いてそうだし、そのほかも阿刀田氏あたりが書いてそうなんですけど、今村色が
    どの作品もきっちり出ていますね。

    またまた、わたし好みのいい作品を紹介していただき、ありがとうございます。

    • bigcanonさんこんにちは!
      そうなんです!これ、ひじょーに良いんですよね!!
      まさに怪談話を聞くような語り具合がたまらなくて、話も面白くて、ほんと私にとっては100%当たりの短篇集なんです。
      確かに設定自体はありそうなのに、そこを絶妙に今村ワールドにしていて、ミステリではないですが今村さんの作品の中でも特に好きなんですよね〜。
      いえいえ、こちらこそ読んでいただいてありがとうございます。今邑ワールドを堪能しましょう!(* >ω<)

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    anpo39

    年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。休日は引きこもって本ばっかり読んでいるので、人との交流があまりありません。仲良くしていただけたら嬉しいです(*≧д≦)