『スチーム・ガール』が爽快スチームパンク小説と見せかけた二人の少女の恋物語でした

表紙絵とタイトルを見たらわかる。

これ絶対面白いやつじゃん、と。

 

しかし実際読んでみると想像とはかなり違いました。なにせ、アクションシーンがほとんどないのですから。

けれども面白いことには変わらなかった、というのも事実であり。

 

エリザベス・ベア『スチーム・ガール』

 

〈縫い子〉と呼ばれる職につく、16歳の女の子カレン。

〈縫い子〉と聞くと、針や糸を使って洋服を作ったり、修理したり、という裁縫職人のようなイメージが浮かびます。

が、実際にカレンが職としているのは、お金をいただき様々な男性と枕を交わすこと。

それで生活をしているわけです。

(苦手な方もいるかもしれませんが、本作においてそういう描写は一切ありません)

 

さて、舞台は19世紀後半。

アメリカ西海岸の港町で、裁縫館〈モンシェリ〉の縫い子となったカレン。

〈モンシェリ〉はいわゆる高級娼館で、そこらの下品な売春宿とは一緒にしてはいけません。

 

ある日、そんな〈モンシェリ〉に一人の女の子が逃げ込んできました。

彼女の名はプリヤ。

バントル、という最低最悪な男の館から必死に逃れてきたのでした。

 

そこからバトルの始まりです。

プリヤを返せ!と無理やり連れて帰ろうとするバントル、プリヤを絶対守るんだ!と一致団結するカレン達。

しかし、バントルは〈人の心を操れる不思議な機械〉を持っているようで……。

 

最悪な男に追われている少女を守るために戦う。なんとわかりやすいあらすじ。

 

ミシンが私の知ってるミシンじゃない。

縫い子でミシンとくれば、普通いま私たちがよく使うあれを思い出すじゃないですが。

でもこの世界のミシンって、〈乗り込み式〉なんですよね。

ミシンに人が乗り込んで、縫製したりアイロンがけしたりする。

どんだけカッコイイミシンやねん。

それでもミシンはあまり登場しない。

表紙に超カッコイイロボットみたいのが描かれているけど、これがミシンらしい。

スチーム・ガール (創元SF文庫)

さぞかしこのミシンを乗りまわして悪党どもをバッタバッタと倒しまくる爽快スチームパンクなんだろうなあ、と思ったら実はそうでもない。

言ってしまうと、カレンがミシンに乗って活躍するのは終盤に入ってからで、その描写もあまり多くはない。

私が想像していたよりはるかにアクションシーンが少なくて、ちょっと驚きました。

じゃあなんで最後まで読まされてしまったかって、これ、二人の少女の恋物語であり冒険小説なんですよ。

帯に「愛する彼女を守るため、カレンは蒸気駆動の甲胄機械を身にまとう」とありますが、これ本気だったんですね。

カレンは逃げ込んできたプリヤのことを本気で愛してしまって、彼女のために奮闘するんですよ。

しかも面白いのが、本作全てカレン視点の語り口調で綴られており、カレンがいまプリヤに対して何を思っているかがだだ漏れなんです。

このへんの心情描写が実に愛らしい。

友だちなら助け合うのーー。そう、わたしたちは友だち。それともわたしは、プリヤに色目を使ってる?この二つは両立しないもの?だったらプリヤはどっちを望んでる?わたしはちょっと悩んでからすぐに気づいた。わたしがプリヤの友だちで、同時にプリヤのブルマーをはきたいと思ってるなら、わたしはしょうもない友だちで、なおかつ、しょうもない恋人候補だ。

P.132より

プリヤのブルマーをはきたい、というなかなか上級者なカレンさん。

 

そして、その秘めた想いに気がつかれるカレンさん。

 

「カレン……」

「はい?」

プリヤの美しい黒い眉のあいだに皺が寄った。

「訊きたいことがあるの。でももし間違ってても、怒らないでね」

「わたしが怒るとしたら、訊きたいことがあるのに訊かないことよ」

プリヤはうなずき、唇をきゅっと結んだ。

「カレンはわたしに何か特別な思いがあるような、そんな気がするんだけど」

お腹のなかの朝ごはんが、まとめて口から飛び出しそうだった。いまもし立っていたら、どすんとすわりこんでいただろう。肋骨をこぶしで殴られた気がする。

P.193より

はたして、カレンの恋の行方は……。

 

世界観を見ているだけでも楽しかった

全然ミシンに乗ってアクションしてくれないじゃん!と最初は思いましたが、これはこれで実に良い作品でした。

何度も言いますけど、「マシンに乗って敵を倒しまくる爽快SFアクション」ではありません。戦闘シーンはほぼないと言って良いでしょう。

なので、アクションだけを求めている方にオススメするのは難しいです。

だって、これは二人の少女の恋物語だったのですから。

 

それを前提に読んでみると、実に楽しいであることがわかります。

本作の登場人物はカレンとプリヤ意外にも魅力のある人ばかりであり、プリヤを助け出した中国人女性メリー・リーや、殺人犯を追っている黒人保安官バズ・リーヴス、体は男でも心は女性のフランシーナ、などなど、あらゆる国籍の人、事情を持つ人が交流していきます。ちなみにプリヤはインドの子。

そしてなにより、架空の街ラピッド・シティそのものの情景描写がとても素敵で、乗り込み式のミシンのような蒸気機械が溢れる町並みを想像するだけで楽しいではないですか。

昔から、RPGに出てきそうなこんな町並みが好きだったので、この点は特によかったですねえ。

物語そのものだけでなく、「街」「人」「動物」の優れた描写にも注目して読んでみていただけたらと思います。

走りながらずっとリジーさんとプリヤに感謝した。ミシン甲冑は走るためにつくられたものじゃないのに(それをいうなら、壁のよじ登り用でも、火事の家らの脱出用でもないけど)、ふたりがいじったおかげで、なかなか出来のいい”鉄をまとった女”になれた。

P.406より

スポンサーリンク

関連コンテンツ

3 件のコメント

  • こんばんは!
    「スチーム・ガール」面白そうですね^ ^
    タイトルを見た時アニメの「スチームボーイ」と勘違いしてしまいましたが、全然違った(笑)「乗り込み式ミシン」ですか・・・(ゴクリ) 興味が湧きます。
    表紙の絵を見るとボトムズっぽく(あるいはザクw)思いましたが、途中のイラストを見るとやぱり全然違いますね^^;
    イラストは管理人様が描かれたんですか? だとしたらお上手ですね!(違ったらすみません・・・)
    ともかく面白そうなので、探して読んでみます(*^^*)

  • 連投ごめんなさいm(_ _)m 一言忘れてました・・・
    娼館が舞台だけどそういった描写は一切ない、とのことで、安心して読めそうです。
    注意書きして下さって、ありがとうございました^ ^

    • キツネ子さーん!いつもありがとうございます(*´∀`*)
      もうタイトルがずるいですよね。同じく、わたしもスチームボーイも連想しました笑。
      「乗り込み式ミシン」ってなんてロマン溢れるのでしょう。
      わたしもボトムズ系かと思ったのですが、ミシンであるだけに「戦闘用には作られていない」ってところがまた良くて。
      記事にも書いたのですが、ミシンに乗ったアクションシーンはほとんどないので、アクションものを期待してしまうと物足りなさを覚えるかもしれません。
      それでも、世界観はやっぱり素敵なので、わたしは好きでした。
      いえいえ!とんでもないです。わたしもそういった描写はできればない方が良いので、娼館が舞台だと知って最初は戸惑ったのですが、全然なくてホッとしたのです(ノω`*)

      あ、そうです。イラストはわたしが描いてみたやつです!笑
      まさかお褒めいただけるとは!うれしい限りでございます。ありがとうございます。涙

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

    ABOUTこの記事をかいた人

    anpo39

    年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。休日は引きこもって本ばっかり読んでいるので、人との交流があまりありません。仲良くしていただけたら嬉しいです(*≧д≦)