『シュークリーム・パニック』-倉知淳さんらしさ溢れる短編集の「完成形」がついに登場

良き短編集が出ました。

『星降り山荘の殺人』や「猫丸先輩シリーズ」でおなじみの、倉知淳(くらちじゅん)さんです。

講談社ノベルスさんから出版されていた、

 

 

 

2冊を合わせて、今回の『シュークリーム・パニック (講談社文庫)』となったわけです。

2冊が1冊に。

これは、買いです(*´∀`*)ノ

 

『限定販売特製濃厚プレミアムシュークリーム事件』

 

「メタボ克服合宿セミナー」に参加したメタボな男性4人組。

期間中は絶食、飲んで良いのは〈健康緑宝茶〉という怪しいお茶だけ。

インストラクターの無茶苦茶な指導に対しての怒りと空腹感に耐えていた最中、とんでもない事件が発生してしまう。

なんと、インストラクターが大事に大事に、テープで封をした冷蔵庫に閉まっておいたシュークリームが消えてしまったのだ!

この中の誰かが、空腹に耐えきれず食べてしまったらしい……。


一番倉知さんっぽい(?)ユニークなミステリでしたね。

冷蔵庫のシュークリームが消える、というライトな謎ではありますが、論理的推理で犯人を突き詰めていくシーンは本格そのもの。

あらゆる「なぜ?」を、丁寧に、丁寧に回収していきます。

こういう、ちょっとマヌケな謎に、本気で推理していっちゃうのが倉知流。

面白いですが、本当に本当に、シュークリームが食べたくなって仕方がなくなるので、注意してください。

 

『強運の男』

「ところで、あなた、ギャンブルはお好きですか」

P.200より

静かなバーのカウンターで、男に話しかけられた。

どうやら私とギャンブルしたいらしい。

特別好きではなかったが、少しくらいはいいだろうと、了承した。

すると、男は、カバンの中からマトリョーシカ人形を取り出し、並べ出す。

マトリョーシカを並べた男は、ごく常識的な顔つきで、少し微笑んで云った。そして、

「趣向というのはですね、ギャンブルをするのがこの人形だという点です。つまり、あなたには人形と勝負していただきたい。バカげていますか? こういう子供じみたお遊びはお嫌いでしょうか」

P.205より


バーで男に話しかけられ、その男が持つマトリョーシカ人形とギャンブルをする事になった話。

ああー、これかなり好きなやつだー!後味最高!

倉知版〈奇妙な味〉ですね。

星新一さんや阿刀田高さんの短編を読んでいるようでした。

ミステリだけでなく、こういう短編を収録させてくる感じ、素晴らしいです。

倉知さんのいろんな顔が見れて嬉しい。

 

『名探偵 南郷九条の失策 怪盗ジャスティスからの予告状』

アニメオタクの小説家・鈴木の元に、一通の予告状が届く。

その内容は、鈴木が所有している、オタクなら誰もが欲しがる超レアな「アニメの色紙」を奪いに行く、というものだった。

イタズラかと思いつつも警備をしていた亀井警部と南郷探偵だったが、予定時刻、まんまと解答ジャスティスに色紙を「奪われて」しまう。

果たして、南郷探偵の推理はいかにーー。


うっわ!出た!

久しぶりにこのパターンのやつ食らった!(嬉しい)

フェアかアンフェアかは置いといて、やっぱりビックリしちゃうよなあ。

溢れんばかりにユーモアがある設定なのに、推理は素晴らしい。これこそ倉知さん。

読み直すと、しっかり伏線が敷かれていることに気がつくんですよねえ。最初読んだ時は全く気がつかないのだけど。

 

『夏の終わりと僕らの影と』

夏休み。

皆で自主制作映画を撮っていた最中に起きた事件を描く、青春ミステリー。

これは、できる限りあらすじを知らずに読んだ方が良いでしょう。

メインとなる謎は、「ほぼ密室状態」からの人間消失。

ではありますが、ハウダニットより、ホワイダニット。ミステリ小説より、青春小説として、大好き。ホワイダニットの伏線の敷き方も良い。

最初っからニヤニヤが止まらないし、読後感もほんわか。超青春です。

こういう中編を最後に持ってくるところがさすが( ´∀`)


このほか、

見知らぬおっさんに持ちかけられた銀行強盗計画に参加することになった僕のまさかの行方を描く『現金強奪作戦!(但し現地集合)』、

部屋に迷い込んできた猫が、思わぬ事件を持ち運んでくる『迷い猫ぐるぐる』など、計六編を収録。

 

倉知さんらしさ溢れる良質な作品集。

最初にも述べたように、本作はノベルス版として『シュークリーム・パニック ―生チョコレート― (講談社ノベルス)』と『シュークリーム・パニック ―Wクリーム― (講談社ノベルス)』の2冊に別れて発売されたのですが、

文庫版のあとがきによりますと、その理由は、

当時のノベルス編集部が「短編6本を1冊にすると分厚すぎる」と判断したからだそうです。

で、倉知さんご本人は、少々不満だったそうです。笑

元々、短編六本で一冊になるように構成を考えて書いていたのです。全体のバランスを考慮して、各短編の配置も計算していたわけですね。ところが、それを分冊して三編で一冊にすると云われたのですから「えっ、ちょっと待ってよ」という気分にもなろうというものです。

もちろん不服を申し立てましたが、「でも、最近は厚い本は売上がよくないのですよ」との説得の前に、あっさり陥落したのでありました。

P.570「あとがき」より

つまり、この文庫版こそ、倉知さんの描いていた『シュークリーム・パニック』の完成形なワケです。

実際に読んでみると確かになるほどであり、どれも絶妙にバランスのとれた短編が、あるべき場所に配置されていることがわかります。

どんでん返しあり、奇妙な味あり、本格あり、ユーモアがあり、シリアスもあり、コメディであり、青春もある。

どの短編が欠けても、『シュークリーム・パニック』にはならないのです。

そりゃあ、六編で一冊を想定して書いたのに、分冊されてはたまらないですよね。笑

 

倉知さんによれば、『シュークリーム・パニック』というタイトルには特に意味がないらしく、収録作品の『限定販売特製濃厚プレミアムシュークリーム事件』を時に強調したワケでもないそうです。

それでも読者は、『限定販売特製濃厚プレミアムシュークリーム事件』という作品が収録されているからこそ、『シュークリーム・パニック』というタイトルにもなんとなく納得するでしょう。

なのに分冊して出されたため、ノベルス版の『シュークリーム・パニック ―生チョコレート―』には、『限定販売特製濃厚プレミアムシュークリーム事件』が収められていない。

それでは読者が「なんでシュークリーム・パニック?」となってしまうのも無理ないですよね。

 

……とにかく今作『シュークリーム・パニック』は、いろんな後味の倉知短編を楽しめる贅沢な一品となっております。

文庫版になったことでようやく〈完成形〉となった『シュークリーム・パニック』を、この機会にぜひ。

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2 件のコメント

  • hitomiです!
    先日、書店で買おうか迷って結局買わなかった私、、
    そういう場合は買うに限りますね。
    いやあ、ヤバいですね。倉知淳さん、、
    すごく面白そう!
    もう、買いですね(笑)
    最後の、青春ミステリーは今からワクワクです。

    • hitomiさん!こんばんは!(*´ω`)
      ですね 笑。一度迷ってしまうと結局買わないことになりがちなので、もう直感で買うのがベスト、まさに「考えるな、感じろ」です。笑
      いやあ、本当に、この短編集はいろんな倉知淳さんの良さが詰まっていると思います。
      ぜひ、最後の青春ミステリでニヤニヤしてください笑。

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