北山猛邦『猫柳十一弦の後悔』は、探偵のあるべき姿を考えさせられる名作本格ミステリです

さて、「城シリーズ」が大好きな北山猛邦さんの『猫柳十一弦の後悔 不可能犯罪定数』です。

表紙絵は「今時のライトミステリー」って感じがするし、実際キャラクターも漫画的なんですけど、実はかなりの本格ミステリー。嵐の孤島モノです。

表紙に騙されちゃいけません。なんていったって城シリーズの北山猛邦さんなんですから。

ミステリー小説としての面白さは折り紙付き。

ずばりテーマは、「名探偵とは」です。

 

【北山猛邦】《城シリーズ》の順番とおすすめとあらすじ

北山猛邦『猫柳十一弦の後悔』

 

探偵ではなく「探偵助手」になるために、大学の探偵助手学部で勉強する君橋君人(通称:クンクン)。

同じアパートに住み、同じく探偵助手を目指す月々守と仲良くなり、どのゼミに入るか決めることになる。

第一希望、第二希望と決め、悪ふざけで「猫柳十一弦(ねこやなぎじゅういちげん)」という変わった名前の先生のゼミを第三希望に書いた。

するとなんと。

私は午後の講義だったので、昼まで寝ていた。そこへ月々が大騒ぎしながら、壊れそうで壊れなかった部屋のドアをとうとうぶち破って、部屋に入り込んできた。

「ちょっと、壊さないでくれ!」

「それどころじゃない、ゼミが決まったぞ!」

「それがどうしたんだよ」

「猫柳十一弦!」

「なにっ」

「俺も、お前も」

「第三希望まで滑ったのか」

「終わったな、俺たちの大学生活」

P.11.12より

猫柳十一弦、なんていかにもおじいちゃんみたいな名前。

しかし実際ゼミに行ってみると、そこには小柄で不気味で、長い黒髪がほとんど顔を覆い隠した、まるで幽霊のような女性(25歳)の猫柳十一弦がいた。

さあ、孤島で合宿だ!(つまり殺人事件だ!)

さて、猫柳十一弦、月々守、クンクンの3人は、人気の高い雪ノ下探偵のゼミと合同合宿で孤島に行くことになりました(なんという王道!)。

しかし早速、異様な事態に巻き込まれる。

 

深夜、玄関の外側に蛍光塗料がぶちまかれていたのです。

 

これは、先生からの、実技試験なのだろう。

これで慌てては探偵助手なんて務まらない。

彼らは、まるで誘っているように点々と奥へ続く蛍光塗料を追って行った。

すると、松林の奥に、蛍光塗料の零れた、棺桶のような箱。

 

箱を開けてみると、雪ノ下ゼミの生徒が、蛍光塗料を塗りたくられたワンピースを身にまとい、絶命していた。

胸に、巨大な木の杭を打たれた状態で。

これは、テストではない。

明らかな、殺人事件だった。

 

さらにその後すぐに、洋館の地下室で、一人の死体が発見される。

一辺がおそよ60センチの立方体、アクリルのようなもので作られた透明の箱の中で、膝を折りたたむようにして。

一夜にして起きた、二件の殺人。

しかも、そのどちらもが、極めて異常な状態で。

 

 

あらすじが長くなってしまいましたが、この作品がいかに面白そうかわかっていただけたでしょうか。

大学生のゼミ合宿で、洋館のある孤島に行き、異常な殺人に巻き込まれる。しかも嵐によって警察が介入できない。完璧です。

犯人はなぜ、蛍光塗料を衣類に塗りたくったのか。胸を杭で撃ち抜いたのか。

なぜ、アクリルの箱の中に死体を入れる必要があったのか。なぜこの殺害方法を選んだのか。

謎は深まるばかりです。

探偵のあるべき姿とは

さて、この作品の一番のポイントであるのは、

猫柳十一弦先生が「未然に事件を防ぐことに全身全霊をかけている探偵」だということです。

彼女は、人が殺されることにひどい悲しみを覚えます。

でも、この状況から察するに、殺人はこの二件だけでは終わらないと推測します。

なので彼女は、ここから凄まじい推理力を発揮させ、犯人を先回りし、殺人を阻止しようと全力を尽くします。

頼りなさそうな、いつも弱気な彼女が、時に頼もしい探偵となる。これこそが、他の本格推理小説と一味違う魅力となるのです。

殺人が全て終わってから、意気揚々と「犯人がわかりました」と推理を披露するような探偵ではないのです。

殺人を未然に防いでしまったら推理小説として盛り上がらない?

そんなこと、彼女には関係ないのです。

 

しかしながら、事件を未然に防ぐということは、メリットがあるだけではありません。

だから難しいのです。

彼が死ねば猫柳の推理が正しいと証明される。

逆に、彼を救ったあとでは、殺人の企て自体、あったのかどうかわからなくなってしまう。

P.186より

 

死ぬ予定の者を救うことは、探偵側の人間として正しい行為だろうか。

もしも死者が出ることで、推理の材料が増え、真実に一歩近づくのなら、それもやむなしと考えるべきであろうか。

しかし、真実に伴う犠牲を見過ごす人間を名探偵と呼べるのか?

P.186.187より

そう、これが重要なのです。

推理小説における探偵とは、死者が出ることを推理の材料にして真実を明らかにする場合がほとんどです。

むしろ死者が、殺人が起きなければ、推理のしようが無いのです。

そこを猫柳十一弦先生はどう考え、推理するか、注目しましょう。

殺人を未然に防ぐ探偵は他にも

井上真偽さんの『探偵が早すぎる (上) (講談社タイガ)』という作品にも、事件が起きる前に犯人を突き止めちゃう癖の強い探偵が登場します。

しかし、ヤツは本当に早すぎる。参考になりません。

猫柳十一弦先生がいかに人間らしいのかがよくわかります。

彼女のキャラクターは本当にいい。いい。

以前、『女性探偵が活躍するミステリー小説おすすめ25選』という記事を書きましたが、その中でも特に好きな女性探偵です。

女性探偵が活躍するミステリー小説おすすめ25選【国内編】

読めばきっと彼女のファンになっていただけるでしょう。

この探偵、最速。『探偵が早すぎる』の探偵が本当に早すぎて事件が起きない

猫柳十一弦は、どこまで事件を防げるか

とにかくポイントは、

・なぜ犯人は手間のかかる異様な殺人方法を選択したのか

・王道すぎる「嵐の孤島で殺人」を、北山さんはどうやって差別化したか

・猫柳十一弦先生のキャラクターが良い。応援したくなる。

・頼りなさそうに見えて、実は誰よりも探偵な猫柳十一弦先生の頑張る姿がいい

・最後に、なぜタイトルが『猫柳十一弦の「後悔」』なのかがわかると同時に、いかに猫柳十一弦先生が天才なのかがわかる

・彼女こそ名探偵だ!

などですね。

しっかり本格ミステリーですが、おどろおどろしさはなくライトな雰囲気で非常に読みやすいです。

城シリーズと雰囲気はだいぶ違いますが、同じくらいオススメしたいシリーズです。

【北山猛邦】《城シリーズ》の順番とおすすめとあらすじ

探偵小説がお好きなら、まず読んでおいて間違いないでしょう。

6 Comments

ちぃ

面白そうであればある程買いたくなり、買えば買う程積み本が増え、増えれば増える程金が無くなり、読めば読む程読む速度が上がり、一気に読めば読む程面白く、面白ければ面白い程次を買い・・・何ですかこのドグラ・マグラ的堂々巡り。
一所懸命な女探偵による本格クローズドサークルとかやめて欲しいです。
魅力的な書評を書く方にも責任ありますよ。
はぁ、どうせこの金田一耕助バッシングも買ってしまうんだろうなぁ。

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anpo39 anpo39

ふっふっふ。
そう、もはやこの堂々巡りから抜け出せません。運命です。
こんな面白い作品、読むしかないのです!!
一所懸命な女探偵による本格クローズドサークルなんて、こんな魅力のある設定があるでしょうか!
魅力的な書評を書く方にも責任!!最高のお褒め言葉としてお受けいたしましょう(本当に嬉しいですありがとうございます)。
そうそう、超金田一耕助バッシングで笑っちゃいますよね。笑
ぜひ買っちゃってくださーい(*´∀`*)

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アラシナオヤ

北山さんのシリーズもので、僕が特にはまっているものです。このブログで紹介してくれて嬉しいですね。
本格ミステリとしての設定の面白さが図抜けていて、時間を防ぐとかどうすんのって感じで読み始めましたが、本当に防いでる!このあたりの物語作りのうまさには感服です。名探偵について深く考えたりするのも、たまには面白いですよね。解決もしっかりしてて、さすが北山さん!

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anpo39 anpo39

おお、すでにハマっていらっしゃいましたか!
ほんと面白いシリーズですよね。
嵐の孤島で殺人という王道の本格ミステリで、しかも極めて異常な殺害方法。
そしてこれから起きる殺人を防ごうと奮闘する猫柳十一弦の探偵としての熱意。
本当に物語を作るのがお上手な方ですよ。名探偵とは?の考察もすごく好きです(ノω`*)

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キツネ子

こんにちは!
「猫柳十一弦〜」面白そうですね^ ^ 「嵐の孤島」で本格ミステリなのにキャラ立ちしているなんて、なんて凄い小説なんだ・・・! 興味が湧きました。
記事中にイラストがあって、イメージしやすかったです(*^^*)これからもバンバン描いて頂ければ・・・(笑)
北山先生の小説は恥ずかしながら読んだことがないのですが、これを機に色々漁ってみたいと思います^ ^
まずは「猫柳十一弦」から!

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anpo39 anpo39

キツネ子さんこんばんは!
「嵐の孤島」で本格ミステリなのに、キャラや雰囲気がゆるくてとても読みやすいです。
猫柳十一弦、ほんといい探偵なんですよね。。。興味を持っていただいて嬉しいです。
まさかイラストをお褒めいただけるとは!!嬉しい!これからもバンバン描いちゃいます!
北山先生の作品は面白いですよ〜。
猫柳十一弦と雰囲気は違いますが、「城シリーズ」も面白いので機会があればぜひ(*´∀`*)

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