『皇帝と拳銃と』-倉知淳さんによる倒叙ミステリシリーズが開幕したよ!

倒叙ミステリを読むこと自体が久しぶりでしたが、思い出しました。倒叙モノの面白さを。

そして倉知さんは、やっぱり安定して面白い。

しかも、おふざけ控えめのマジ本格のやつだ!(失礼)。

 

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[aside type=”normal”]倒叙ミステリとは、「犯人の視点」で進むミステリのことです。[/aside]

倉知淳『皇帝と拳銃と』

 

ってなわけで本作。

1.『運命の銀輪』(初出 ミステリーズ!vol.33 2009年2月)

2.『皇帝と拳銃と』(初出 ミステリーズ!vol.64 2014年4月)

3.『恋人たちの汀』(初出 ミステリーズ!vol.75 2016年2月)

4.『吊られた男と語らぬ女』(初出 ミステリーズ!vol.84 2017年8月)

の四編からなる倒叙ミステリ短編集です。

1.『運命の銀輪』

金槌で殴って殺害。

逃走用に、小回りの効く自転車をあらかじめ用意。

家に着くなり宅配便が届き、完璧とは言えないが「その時間は家にいました」というアリバイを主張できる。

しかも、雨まで降り始めた。

これで殺人の証拠が洗い流されていく。たとえ、自転車にどんな痕跡が残ろうとも。

自分が犯人だとわかるはずもないーー。

 

そう、たかをくくっていた犯人の前に現れた、一人の「死神」。

しかし、それにしてもよく似ている。特殊メイクの映画やイラストなどで見る死神のイメージが、そっくりそのまま具現化している。削ぎ取ったように痩せた頬、鋭角的に鋭い顎、悪魔を思わせる鉤鼻、尖った大きな耳ーーそして何より、その目。

暗く深く、虚無の深淵を覗き込むがごとく、陰気で表情の感じられない瞳。黒い洞穴のようなその目が、恐ろしい”死神”の印象を最大限に強めている。

P.20より

この「死神」こそ、本作の探偵役となる「乙姫警部」。見た目と名前のギャップがすごい……。

でも実に良いキャラクターをしている。


というわけで一発目の短編。

良くも悪くも、無難な倒叙ミステリ。

犯人も言っているように「そんな偶然があっていいものか」という感じですが、犯人を油断させる手順とそのほかの決め手もなかなか。

死神は「どこで犯人を疑ったか」、に注目して読むとより楽しいです。

「どうやら随分前から私は疑われていたようですね。一体いつから疑っていたんですか」

P.61より

2.『皇帝と拳銃と』

「皇帝」と称される東央大学の稲見主任教授が、一人の男を殺害する。

倒叙でありながら、どうやって殺害したか?も読者は途中までわからないパターン。

 

倒叙ミステリって、

「自分が容疑者から外れるように綿密に練った計画が、逆に自分が犯人だと決めつける証拠になってしまう」

というのが実に楽しいポイントだと思うんですよ。

この『皇帝と拳銃と』こそ、まさにそれ。

犯人が前もって用意していた何枚もの「壁」を、探偵が淡々と崩しながら突き進んで追い詰めていく、ザ・倒叙ミステリの醍醐味を味わえます。

さすが表題作。このオーソドックスさがいい。

しかも皇帝のキャラクターの痛さと、読後思わずニヤリとしてしまう苦味が残るのも良い。

3.『恋人たちの汀』

プシュプシュと、いつも消臭スプレーを撒き散らすことがクセになっていた男を殺害。

現場から証拠となるものを持ち去り、知人にお願いしてアリバイも完璧だ、と思われたが。

 

読み始めてすぐに、「プシュプシュと撒き散らす消臭スプレー」が事件の鍵となるのは誰でもわかります。

あとはそれをどう推理に結びつけていくか、ですが、さすがにお上手ですね。

犯人の決め手となる証拠を、論理に論理を重ねて確実に突き止めていく、推理小説の醍醐味を味わえます。

しかもこちらとしては犯人視点なわけですからね、犯人に感情移入してしまい途中で本気で逃げ出したくなりましたよ。

私が犯人だったら、推理を最後まで聞く前に気絶しちゃうだろうなあ。

倒叙ミステリって基本そうですけど、最後の捲したてるような推理の連続、心臓に悪いですよねえ。

4.『吊られた男と語らぬ女』

男の首吊り死体が発見される。

自殺かと思われたが、すぐに不審な点が見つかる。

どうやら首を絞められた後、また別のロープで吊るされたようで、首に残っていたロープの太さが違っていた。

①犯人はなぜ、凶器に使った太いロープを変更し、細いロープで首を吊らせたのか。

②六十九キロある男性を、どうやって吊り上げたのか。

が鍵。

①に関しては、凶器に使った時に自分が犯人である証拠がそのロープに残ってしまった、だから変えた、と考えられなくもないですが、太さをわざわざ変える必要はありませんよね。

謎は深まるばかりです。


これも見事でした。

思わず「そうくるか!」という展開でとても楽しめた。最終話らしい最終話ですね。

いや、最終話だからこそ、であり、これが一発目だったらダメなのですよ。うーん良い配置。

にしても、なんだ、この読後感。こんな事件、起きてほしくなかった……。

 

これからも読み続けたい倒叙シリーズ!

これぞ倒叙ミステリ!という『皇帝と拳銃と』、論理的推理が冴え渡る『恋人たちの汀』あたりが好きですね。

でも印象に残るのは最終話『吊られた男と語らぬ女』だったり、結局どれも面白かった。

こういう作品を読むと、やっぱり倒叙ミステリ良いよね!って気分になります。

倉知さんにはぜひ、どんどんこのシリーズをお書きになっていただきたい(´∀`*)

(猫丸先輩もお願いします!)

 

なにより、ミステリとしての質が高いのは当然として、探偵役のキャラクターが良いですからね。

見た目が完全に「死神」の乙姫警部、好きです。

(死神ーー)

一目でそう思わせる風貌の男だった。

喪服じみた黒のスーツ。西洋絵画に見る死神そのものの顔立ち。全身から陽炎のように立ちのぼる陰気なムード。漆黒の闇を思わせる、地獄の底の深淵を覗き込んでいるような暗い眼差し。

どこからどう見ても、死神のイメージしか思い浮かばない男である。

P.95より

 

(死神ーー)

のっそりと入って来た人物は、そうとしか見えなかった。

(死神が来た)

伽也は得心した。

そうか、この死神が伽也の罪を暴くのか。

そのために巨大な鉄の鎌を手に持っているのだ。その鋭い刃の鎌で伽也の魂ごと刈り取る。

罪を問い罰を与えるために、鎌を大きく一振りするつもりなのだ。

P.286より

初対面の相手に「巨大な鉄の鎌を持っている」と錯覚させるほどの乙姫警部に笑ってしまいます。

死神っぽい警部というより、警部っぽい死神でしょう、これ 笑。

ぜひぜひ、もっと乙姫警部の活躍を見させていただきたいですなあ。

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