夏川草介『本を守ろうとする猫の話』は「本」ついて考えさせられる大切なお話でした

先日発売されました、夏川草介さんの『本を守ろうとする猫の話』。このタイトル。そして表紙のイラスト。

完全にやられてしまいました。この手の本に弱いんです。「猫」と「本」という組み合わせは最強です。

読む前からすでに「良い話」感がすごくしますよね。

で、結論を言いましょう。

 

めっちゃ良い作品でした。

「私は本が好きだ」という方にはぜひ読んでいただきたいです。きっと「読んでよかった」と思っていただけるはずです。

もう本好きにはたまらない物語なんです!ああ、良い本に出会えた……!!

 

夏川草介『本を守ろうとする猫の話』あらすじ

 

高校生の夏木林太郎は、突然に祖父を亡くし、ただただ呆然としていました。

祖父が遺したものは、遺産というほどでもない「夏木書店」という小さな古書店。

しかも良くあるような古書店ではなく、年季の入った世界中の傑作や希少な本が揃えられたマニアックな店。逆に言えば、流行の本などは一切なく、決して万人受けするような店ではありませんでした。

それでも本を愛していた祖父の想いが残るこの店で、林太郎は最後の閉店セールを行っていました。

 

そんなある日のこと。

林太郎が閉店後の店内で支度をしていると、誰もいないはずの店内から誰かの声が聞こえてきました。

ぎょっとする林太郎。あたりを見回してみると、一匹のトラネコの姿が。

猫のしなやかな尻尾が揺れたところで林太郎はつぶやいた。

「猫?」

「猫で悪いか」

猫が答えた。

間違いなく猫が「猫で悪いか」と答えた。

P.17,18より

なんと、トラネコがしゃべったのです。

そしてネコは「力を貸して欲しい」と言いました。さらに「ついてこい」と。

訳も分からないまま、店の奥に進んで行くネコについていく林太郎。すると、すぐに行き止まりになるはずなのに、壁にぶつかることもなくどんどんと進んで行く。

さらに進んで行くと、林太郎は光に包まれていきます。気がつけば、そこには見たこともない異世界がありました。


というわけで、これから林太郎は言葉を話すネコに連れられて「4つの迷宮」に導かれることになります。

そして林太郎は4つの迷宮で様々な人物と出会います。

その人物はそれぞれ「本」に対して偏った考えを持っており、林太郎は彼らと「本に対する考え方」をぶつけ合うことになります。

今回は、「第一の迷宮」と「第二の迷宮」のあらすじをちょっとだけ見てみましょう。

第一の迷宮「閉じ込める者」

さて、林太郎が初めて連れてこられたのは、とある男の屋敷。

この男は、あらゆる膨大な数の本をガラス張りのショーケースに収納していました。なぜなら本を愛しているから、だと言います。

しかも毎月百冊の本を読むため、一度読んだ本は二度と読まないと言います。同じ本をもう一度読むなんて、時間の無駄でしかない、と。

そう。この人物は「とにかく本をたくさん読んだ者が偉い」と考えており、そして一度でも読んだ本はショーケースに並べ「私はこれだけの本を持っている素晴らしい人間だ」という想いに浸っていたのです。

果たして、この男は本当に本を愛しているのでしょうか?

「一冊の本を十回読む者より、十冊の本を読む者の方が敬意を集める世の中だ。社会で大切なことは、たくさんの本を読んだという事実だ。読んだという事実が人々を魅了し惹きつけるのではないか。違うかね?」

P.49より

第二の迷宮「切りきざむ者」

第一の迷宮では、とにかくたくさんの本を所持することが偉いと考える「本を閉じ込める者」と出会いました。

そして第二の迷宮では、とにかく本を速く読むことを追求した「切りきざむ者」と出会います。

この第二の迷宮がまた深いんです。

現代社会では人は本を読まなくなったという。けれども事実はそうじゃないんだ。皆忙しくてゆっくり本を読んでいる暇がないだけなんだ。多忙な毎日で、読書にかけられる時間は限られている。けれども読みたい本は多い。みんな多くの物語に触れたい。『ファウスト』だけじゃ物足りない。『カラマーゾフの兄弟』も読みたいし、『怒りの葡萄』だって読みたい。その真摯な願いを聞き届けるにはどうすれば良いか」

P.87より

この第二の迷宮の人物は、たくさんの本を読むために一冊の本を読む時間をとにかく速くすること、を研究していました。

確かに、私も本をたくさん読みたいです。でも1日に本を読める時間は限られており、常に積読本が溜まっていってしまいます。

ではどうすればたくさんの本を読めるのか。確かに一冊にかける時間を短縮すれば、その分多くの本を読むことができることになります。

でも本当にそれで良いのでしょうか。

「本」というものに改めて向き合える物語

この他にも第三の迷宮、そして最後の迷宮が林太郎の前に立ちはだかります。

これ以上内容は言えませんが、いずれも「本」について改めて考えさせられる物語りばかりです。

果たして「本を読む」というのは一体どういうことなのでしょうか。

読んでいて驚いたのは、それぞれの迷宮に登場する人物の言っていることが正しいようにも思えてしまったことです。その人物の本に対する考え方を聞くと、「確かに」と納得させられてしまう場面も少なくありませんでした。

第一の迷宮の人物の「本はたくさん読めば読んだほど良い」という考えも、第二の迷宮の人物の「たくさんの本を読むためにはとにかく読書スピードをあげる事だ」という考えも、100%間違っているとは思えなくもないのです。

しかし、それに対する林太郎の意見を聞くと、ハッとさせられてしまうのです。

私もいつの間にか「本をたくさん読みたい」という欲求にまみれ、本当に大切なもの見失ってしまっていたのかもしれません。

この作品を読んで、本に対していろいろな事に気がつかされました。そして改めて「私は本が好きだ」と心から思えました。

「私は本が大好きだ!読書家だ!」という方にこそぜひ読んでいただきたい作品です。

改めて「本」というものに対しての在り方を考えさせられる、大切な読書時間となる事でしょう。

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