『鳥-デュ・モーリア傑作集』は死ぬまでに読んでおきたい級の傑作短編集なんです

ヒッチコックの映画で有名な『鳥』を収めた、ダフネ・デュ・モーリアさんの傑作短編集です。

『鳥』がどんな作品か簡単に言いますと、「ある日を境に世界中の鳥が人間を襲い始める」という話。ただのパニック小説のようで、そうではないんです。

他にも『鳥-デュ・モーリア傑作集』には、『恋人』『写真家』『モンテ・ヴェリタ』『林檎の木』『番』『避けた時間』『動機』という名作ばかりが収められています。

しかも「これは本当に同じ人が書いたの?」というくらいジャンルがバラバラであり、幻想的なものもあればホラー、探偵小説まで揃えた飽きのこない作品群となっているんです。

今回はこの中から4つのお話を見てみましょう!

 

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『鳥』

なんと言ってもこれですよね。

この作品の面白いところって、「オチがすごい!」とか「なんで鳥が人間を襲うの?」とかではないんです。

「異常事態を警告させる描写」というか「明らかに異変が起きている」ということを知らせる描写。これが怖いんですよ。

そのときナットは彼らに気づいた。カモメだ。彼らはそこに、その海に浮かんでいた。

最初ナットが白い波頭だと思ったものは、カモメだったのだ。何百、何千、何万ものカモメたち……浮かびあがっては、波の谷間に沈んでいく。風に顔を向け、錨を降ろした無敵の艦隊のごとく、海面で待機している。東を見ても、西を見ても、彼らはいた。

『鳥』P.67

カモメたちだ。彼らは舞い上がっていた。何百、何千ものカモメが、風に向かって翼を広げ、空中に輪を描いている。空を暗くしていたのは、彼らだったのだ。彼らは静かだった。鳴き声ひとつあげず、ただ滑翔し、旋回し、空を駆け上がり、駆け下り、風に逆らって自らの力を試している。

『鳥』P.74より

カモメこっわ、ってなりますわ。

もちろん鳥からの攻撃も怖いんですよ。

でもこの作品では、鳥の攻撃そのものより怖い「空気」を描いているんです。これが見事というわけですね。

『鳥』を読めば、なぜ著者がこんなにも評価されているかがすぐにわかるでしょう。

『林檎の木』

なんとも不気味なホラーサスペンスです。

主人公が住んでいる庭には林檎の木が植えてあるのですが、そのうちの一本がずっと枯れかけていたんです。

でも3ヶ月前に妻が死んだ時辺りから、急に芽を出したり、実をつけたりと、その木が急に生き生きとしてきたんです。

ただ主人公にしてみればそれが不気味で。

しかもその木を焚き火に使用しても燃えないし、実を食べようとしても口に合わないし。

口うるさい妻がなくなって実はホッとしていた主人公なのですが、今度はこの奇妙な林檎の木に悩まされていくことになります。

主人公はどうにかして林檎の木を処分しようとしますが……。

『裂けた時間』

ミセス・エリスがちょっと散歩に出て家に帰ったら、自宅がアパートになっていて誰も知らない人達が住んでいた。っていうお話。もう最高です。

さっきまでここには自分の家があって、お手伝いさんもいて、学校にいっている娘の行方もわからなくて、大混乱です。

大掛かりな窃盗団だと思って警察に通報するんですが、当然誰も信じてくれないんですね。で、自分の方が精神に異常があると思われてしまう。

ミセス・エリスの身に一体何があったのでしょうか。

『動機』

素晴らしきまっとうなミステリ。

メアリー・ファーレンという女性が自殺をしました。

彼女は夫にも恵まれ、他人から見ても素晴らしい夫婦であり、春には子供も授かる予定だった、という幸せの絶頂にいました。

自殺する理由が全くわからないのです。

でも、他殺ではありません。明らかな自殺なんです。

というわけで、なぜ彼女は自殺したのか?という「動機」を推理していく物語となります。


妻に何があったのか。自殺した理由を探ってほしい。

とメアリー・ファーレンの夫に頼まれた探偵ブラックは、彼女の過去を洗いざらい調べ、原因を探っていきます。

ここで面白いのは、メアリーの関係者から情報を聞き出そうとするブラックの描写ですね。

嘘を見抜く洞察力とさりげない誘導尋問がお見事。何かを隠そうとしていても、ブラックにはそれを察して、情報をうまく引き出してしまうんです。

で、何人もの人からメアリーの情報をかき集めたブラックは、ついに真実を知ってしまうのですが……。ああ、これ以上は言えません!でも、このラストは、ああ、なんと言いましょうか。うう。

 

さすがの傑作集。

タイトルに「デュ・モーリア傑作集」とあるだけあって純粋に面白い短編集です。凄いと思います。

今回ご紹介していない『恋人』『写真家』『モンテ・ヴェリタ』『番』も名作ですからね。ほんとに面白い作品しかないんですよ。

しかも翻訳ものながらクセが少なくて読みやすいのも嬉しいポイントです。

個人的には「死ぬまでに読んでおきたい」くらいの作品集だと思っております。ぜひ、お手にとってみてください。。

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2 件のコメント

  • 「鳥」と「裂けた時間」面白そうですね。こういう一見不条理な設定の物語、好きです。

    デュ・モーリアの短編集と言えば、管理人さんは早川書房から出ている「破局」はもう読まれましたでしょうか?気怠い日常にウンザリした主人公が、見知らぬ女性とその子供を殺そうとする「アリバイ」や、美少年に入れ込む老人の倒錯した感情を描いた「美少年」など、人間の暗い感情の移り変わりとミステリーやサスペンスを上手く組み合わせた傑作だと思います。
    この「破局」も含めた全20巻からなる「異色作家短編集」シリーズ、異色と言うだけあってどれも一筋縄ではいかない作家の作品ばかり。その中でも特にこの「破局」と「一角獣・多角獣」「特別料理」の3つは素晴らしく面白かったです。良ければ読んでみてください!長文失礼しました。

    • Nさんこんばんは〜(*´∀`*)
      わたしもこういう不条理な物語大好きなんですよ。たまらないですよね。
      おおお!異色作家短編集!実はわたしも大好きなシリーズなんです。
      ですが!「破局」は読んだことがあるのですが、「特別料理」と「一角獣・多角獣」は読んでいないのです。。
      いつか読もう、、みたいな感じになってしまっていて。
      でも今決めました。素晴らしく面白かったと言われてしまっては、読みたい欲が抑えきれません。
      というわけで今速攻で図書館で予約しました!やっと読めます。素晴らしい機会をありがとうございます(´∀`)

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    anpo39

    年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。休日は引きこもって本ばっかり読んでいるので、人との交流があまりありません。仲良くしていただけたら嬉しいです(*≧д≦)